決済つきの予約システムが3,940円〜/月

二次被害をなくすために、私たちができること

 2017年、ハリウッドで#MeToo運動が起こり、米映画業界の性暴力が明るみになりました。同年、ジャーナリストの伊藤詩織さんが性被害を告発、日本でも被害体験を告白する人が増え、さまざまな環境で頻繁に性暴力が起きていることが明らかになりました。
 性被害当事者団体による刑法性犯罪改正を目指すアドボカシー活動や、女性運動による性暴力への抗議デモにより、性被害事件もメディアやSNSで注目を集めるようになりました。
 性暴力が重大な社会問題として取り上げられるようになったことは裁判や刑法改正審議に大きな影響を与えていますが、注目される一方で、声を上げた被害者がさらに傷つけられる「二次被害(セカンドレイプ、二次加害)」も問題になっています。
 二次被害は、加害者によってではなく、被害者の周囲のさまざまな人の憶測や偏見によって引き起こされます。特にインターネット上では誤った情報が飛び交いやすく、ニュースサイトのコメント欄やSNSにおいて、その被害はより深刻です。

 性暴力の加害者は見知らぬ人とは限りません。加害者が日常生活のなかで少しずつ上下関係をつくりあげ、被害者からの尊敬や好意を利用するケースもたくさんあります(エントラップメント型)。これは知人や顔見知りによる被害であるため、被害者は「隙があった」「断れたはずだ」といった言葉で追い討ちをかけられます。こういった誤った認識から原因や理由が強者(加害者)ではなく弱者(被害者)に転嫁され、弱者側が自責感をもたされる現象が起きてしまいます。

 私たちは性暴力が蔓延する社会に生きており、性被害者に関する話題を日常的に目にしています。
 このメッセージは、性被害者に対する理解を深め、だれもが二次被害を引き起こさないよう呼びかけるものです。
 さまざまな立場で二次被害を防ぐためにできることを以下に紹介しますので、是非多くの方に呼びかけていただき、性暴力のない社会をつくっていきましょう。

***

【メディアの方へ】
 被害者は取材以外にも、裁判や事情聴取など事件について何度も同じことを話さなければならない場合があり、執拗な取材、報道は精神的に疲弊します。
 記事は一度配信されると、情報を正すことが非常に困難であり、取材や調査なしにSNS上の情報を集めただけの事実関係の裏付けがとれていない記事では、さらに二次被害を引き起こしやすくなります。また、サムネイル等に加害者の写真を使用することは、フラッシュバックを引き起こす可能性があります。記事の配信をする際は、被害者の心理状態を想像することを忘れないでください。
 性暴力被害者と報道記者を中心とした対話の会「性暴力と報道対話の会」が作成したガイドブックが公開されています。是非参考にしてください。

【SNS・動画共有サービス・ブログ利用者の方へ】
 最も多い二次被害は被害者が責められることです。「短いスカートを履いていたから」「誘われてついていったから」などと被害者に原因があるように語られがち(レイプ神話、強姦神話)ですが、被害者がどんな服装をしていても、二人きりになったとしても、望まない性的な行為は、性的な暴力にあたります
 また、性犯罪の被害者は物理的に抵抗できない場合、被害を抑えるために加害者に対して従順でやさしい態度をとることがあります。このような心理状態は理解されにくく、「本当は嫌がっていなかったのでは?」と疑われることも少なくありません。そのような心ない言葉を目にした被害者は声を上げることをやめてしまい、その結果被害が可視化される機会が減ってしまいます。
 憶測などによる情報はインターネット上に一度公表されてしまうと、デジタルタトゥーとして残り続け、情報を正すことが困難になります。被害者の心理状態を想像せず、被害者に責任があるような考えを投稿することは二次加害にあたります。加害者の功績や人格を根拠に被害を矮小化すること、加害者の仕事や関係者の心配をすることも被害者を責めることにつながります。
 2017年〜2019年のあいだ、SNSで「枕営業大失敗」といった被害者への誹謗中傷がありましたが、これは大変悪質な二次加害であり、投稿者に対し「(被害者の)社会的評価を低下させる」という判決が2021年11月に下されています。
 性被害に関する考えや意見を投稿する前に、それが二次被害を引き起こす行為にあたらないか、じゅうぶん考えてください。

【視聴者・読者の方へ】
 記事の拡散や共有は被害者も目にする可能性があるため、フラッシュバックを引き起こす可能性があります。内容やサムネイル等に気を付けながら、「閲覧注意」といった言葉を添えると同時に、気軽に拡散することが二次加害にならないか、じゅうぶん注意しましょう。もし、被害者に非があるように伝える報道や記事を見かけたら、メディアの問い合わせフォームなどから二次被害を引き起こす記事であることを知らせてください。


【身近に被害者がいる方へ】
 被害者と接する時間が多いと、精神的負担となり、被害者を責めてしまうことも少なくありません。また、声を上げた人に対して「がんばって」「応援している」という言葉をかけがちですが、被害者は努力を求められるように感じてしまうこともあります。「被害者は悪くない、悪いのは加害者である」ということを常に忘れず、「声を上げただけでじゅうぶんだ」という気持ちで、自尊心を守ってあげましょう。
 つらい場合は、被害者と一緒に専門の相談機関で支援を受けることで、改善するかもしれません。

***

 私たちが二次被害を防ぐことは、性暴力のない社会づくりにつながります。
 もし、周りに二次被害を引き起こすような言動や行動をとっている人がいたら、それは加害行為であることを伝え、積極的に被害を止めていきましょう。
 みなさんの身近で起きていなくても、誰もが関わっている問題だと捉え、このメッセージを周囲の人に伝えていただくことを私たちは望んでいます。

2022年3月17日

相川 千尋 翻訳者
石川 優実 俳優・アクティビスト
太田 啓子 弁護士
松尾亜紀子 編集者
山田亜紀子 編集者
(あいうえお順)


〔おすすめリンク〕
大切なことを伝えたい 性暴力被害者支援ガイド(性暴力救援センター・東京)
身近な人が性暴力被害にあったら(性暴力救援センター・SARC東京)
知っていますか?二次被害のこと(千葉犯罪被害者支援センター)


賛同者:

葭本未織      劇作家
港岳彦       脚本家
松林うらら     俳優・映画プロデューサー
早坂伸       映画カメラマン
田中大介      ライター・編集者
伊藤恵里奈     USC映画芸術学部客員研究員
こはら       俳優
笛美        会社員
中根若恵      南カリフォルニア大学映画芸術学科 博士後期課程
高岡 洋詞     フリー編集者/ライター
菱山南帆子     市民運動家
三輪江一      俳優・脚本家・映画監督
柏原登希子     ふぇみん編集部
牛丸亮       俳優
一般社団法人Japanese Film Project
竹田純       編集者
深谷有基      編集者
大島史子      漫画家、翻訳者
アサノタカオ
賀々贒三      映画監督
三浦ゆえ      フリー編集/ライター
吉良智子      研究者
木下千花      京都大学大学院教授
穐山祐美子     翻訳者
飛幡祐規      エッセイスト、翻訳家、ジャーナリスト
小山内園子     韓日翻訳者
中島万紀子     早稲田大学非常勤講師
吉野靫       クィア、立命館大学生存学研究所客員研究員
中村彩       研究者
さくらいあや    俳優
よこのなな     翻訳者
杉田くるみ     元フランス国立科学研究センター研究員
知乃        俳優
宮下萌       弁護士
演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会
桃子        バイブコレクター
菅野優香      研究者
南あさひ      映像作家
鷲谷 花      映画研究者
和田靜香      ライター
大貫詩織      助産師
SAW&LAW      芸人
インベカヲリ★   写真家、ノンフィクションライター
清水優子
UPLINK Workers’ Voices Against Harassment
栗田隆子      文筆業
おしどりマコ・ケン 芸人/記者
二三川練      歌人、文筆家
舩橋淳       映画作家
アトランさやか   文筆家、翻訳家
望月衣塑子     新聞記者
石原燃       劇作家
小野春
ふぇみん婦人民主クラブ
長田杏奈      ライター
許ユヘイ